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片山哲也は決しておしゃべりな人物ではありません。仕事場でもプライベートでも、口数がとても少ないのですが、彼のそばにはいつも人が絶えません。上司には何かと頼りにされ、部下に慕われてもいます。行きつけの飲み屋では一品、好意のつまみが付け足されたりもします。それは何故なのでしょうか。それを知るには、片山哲也を形成する三つのことについて話す必要があります。

まず一つに、彼が聞き上手であることが挙げられます。片山哲也の相槌は的確でスムーズです。嫌味など微塵もなく、「ほう。」「ああ。」「そうなのか。」など、それだけの同意を繰り返すだけで、人は親身になって話を聞いてもらえた気になり、満足します。片山哲也への信頼感のようなものがそこでうまれます。ただ話を聞いているだけだ、と本人は謙遜するものの、上司や取引先から一目置かれる理由はそこにあります。
二つ目には、多趣味であることが挙げられます。バイクでのツーリング、愛車でのドライブといった男らしい趣味だけでなく、料理や美術館巡りといったような、比較的静的な趣味があるのです。音楽への造詣も深く、海外でオペラを鑑賞したことがあると、自慢するでもなく話していました。美術や音楽といった芸術への愛のなせる技か、英語、ドイツ語、イタリア語で歌を口ずさんでいるのを聴いたことがあります。多趣味でありながら、それをひけらかさないのもまた魅力といえるのではないでしょうか。
三つ目は、長所ではなく、短所です。ですが、この短所こそが、片山哲也の人間的魅力を形成しているといっても過言ではありません。彼は、人の名前を覚えるのが苦手なのです。熱心に話に聞き入り、絶妙なタイミングで相槌をうっていながら「あのぉ、大変失礼ですが、どちら様でしたっけ」と、彼はしばしば言います。相手は暫し呆然とした後、大抵、大笑いしながら名を名乗ります。人の話にきちんと耳を傾け、ありあまる教養やうんちくを自慢するでもなく口に出す男が、人の名前を覚えられない、そのギャップに周囲の人々は好感を抱くのです。
先の二つの事柄だけが片山哲也を形成しているとしたら、尊敬こそされど、純粋に好感をもたれることは、むしろ少ないことでしょう。しかし、彼のただ一つともいえる短所が彼を魅力的たらしめ、親しみ易い人物にみせているのです。
人間の長所と短所がどのように作用し、人に印象を与えるのか、それは本当に分からないものです。

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